犬種の特性を知ったうえで飼う

お年寄りではこんなケースもありました。飼い主さんは70歳にしてまだまだ現役、専門学校でお花を教えているという元気なご婦人。その息子さんから、出張トレーニングの依頼がありました。犬種はレークランド・テリアで、生後5ヵ月のオスでしか。父親が亡くなり、ひとりになってしまった母親を気遣い、息子さんがプレゼントしたのだそうです。

しかしある日、いつものようにおもちゃで遊んでいて、もう終わりにして犬をハウスに入れようとおもちゃを取り上げようとすると、ものすごい形相でうなったのです。それを目撃した息子さんが、慌ててレッスンを申し込んできた、という経緯でした。

テリア種は、興奮のスイッチが入ると行動がかなり激しくなることがよくあります。フィールドでは優秀なハンターなので不思議なことではありませんが、お年を召した方と生活する上では、不必要な行動が出やすいことも事実だと思います。

飼い主さんの理想と現実が合わなかったことと言えば、柴犬の女の子『はな』(3ヵ月齢)を思い出します。飼い主さんは、なでようとすると嫌がって逃げるはなを見て、「犬なのにおかしいな」と感じていたそうです。みなさんはどう思いますか?

頭をなでられる、あるいは体にさわられるのがあまり好きでない犬は少なくないと、私は感じています。

飼い主はうれしくても、知らない人は嫌、というパターンもあります。

通常のレッスンやK9ゲームのチームでたくさんの犬たちと出会ってきていますが、誰にでもなでられるのが好きで好きで、という犬を思い出すほうが難しいです。その数は、圧倒的に少ないと思います。

とくに柴犬は、それなりの数を扱ったことがありますが、仲良しになれたとしても、なでられることを喜んでくれる犬はあまりいません。この件に関して、トレーナー仲間数人に聞いても同じ意見が返ってきました。柴犬を始めとした日本犬は、気安くなでられることを喜ばないことが多いようです。

私は飼い主さんに、自分の経験をもとに「柴犬はなでられること、とくに頭をなでられることを好む犬は少なく、どちらかというと適切な距離感をもって接するのが仲良くなれるコツだと思っている」と伝えました。それを聞いて、飼い主さんはとてもがっかりしていました。

飼い主さんとしては、いつもなでなでしてラブラブして抱っこできる、そんな犬との関係を望んでいたそうなのです。残念ながら……選ぶ犬種が違っていたかと思われます。

どの犬種だって飼えないものはないと思いますが、飼い主さんの望んだライフスタイルに合わせやすい、合わせにくいはあると思います。これから犬を飼う方は、まず犬種の特性をよく知った上で迎えてほしいと思います。ペットショップの店員さんは、それこそ良いことしか言わない人も多いようなので、気を付けてください。

いちばんおすすめなのは、実際に飼っている人を複数見つけて、その犬種について聞くことです。オフ会などに参加させてもらって、話を聞いたり、実態を観察するのもとても良いことでしょう。

実際、欲しくて欲しくて夢にまで見たという、○○テリアのオフ会を見学に行った人が、実際の様子を見て飼うのを再検討することにしたということもありました。「○○」については、今ここでは伏せておきます(苦笑)。

 

犬種について

飼い主さんから「どんな犬種が飼いやすいですか」と聞かれることがよくあります。個体差もあるので、なかなか一概には答えられない質問です。

強いて言えば、飼いやすい犬種としてはシー・ズーやキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどを挙げることが多いと思います。実際に飼っている人からすれば「いや、そんなことないよ」というご意見もあるかと思いますが、もし同じお悩みの行動(吠える、噛むなど)がほかの犬種、たとえば柴犬やウェルシューコ・ギー、テリア種にあった場合、行動を改善する作業は何倍も大変になると感じています。

これは、私がこの数年間、問題行動で飼い主さんが困っている1000頭以上の犬たち(一部は問題行動がまだ出ていない子犬もいますが)と向き合ってきて、感じることです。

また、飼い主さんの性格やライフスタイル、環境、思い描く理想の付き合い方と、選んだ犬種の特性が合わない場合もあります。

実際に私が扱ったなかで思い出すのは、『ジョン』(ボーダー・コリー/♂/4ヵ月)のケース。

ジョンの飼い主さんは看護師さんで、仕事柄、夜勤で帰れない夜もありました。お住まいはあまり広くなく、そこに寝たきりのおばあさんと、犬が怖くてさわることができない独身の弟さんが同居していました。ジョンのハウスは、やっと体が収まるくらいの狭いゲージの中でした……。

ボーダー・コリーは、もともと家畜を追うための作業犬で、広いスペースを走り回るのが大好き。そしてそれだけの豊富な運動量を必要とする犬種です。ということは、散歩をたくさんして、運動エネルギーを消費してやる必要があります。

しかし忙しい看護師さんには、散歩のために十分な時間がなかなか取れません。家では寝たきりのおばあさんの介護もしなければなりません。弟さんに散歩を頼もうとしても、怖くてさわれないので無理とのことでした。

そんなジョンは、ある日、ハウスに入れようとした飼い主さんの手を噛んでしまいました。ハウスは育ち盛りのジョンには小さすぎるサイズだったので、それなりの抵抗をしたのだと思います。明らかな運動不足も、攻撃的な行動の原因になっていたと思われます。

実際にジョンに会ってみると、ごくごくふつうの子犬でした。まだ4ヵ月齢なので動きもまだ子犬っぽく、エネルギーがあってとても元気。人なつこく、私がプロレス遊びに誘ってやると、上手に加減した甘噛みをすることもできました。とても飼い主を血だらけにする犬には思えません。

しかし飼い主さんは、そんなジョンに対して、「絶対に人に噛みついてはいけない」「自動車に飛びついてはいけない」などのしつけをするため、飼い主さん仲間からのアドバイスに従って体罰を使ってしまいました。体罰が全面的にダメだと言うつもりはありませんが、慎重に使わないと、かえって犬の攻撃性を引き出すことになります。

結果、飼い主さんと犬との信頼関係は壊れ、犬は自分の身を守るために、飼い主を攻撃することを覚えてしまいます。ジョンも例に漏れず、体罰で叱られたその夜に飼い主さんを再び血だらけにしてしまいました。

この場合、飼い主さんの住環境や家族構成、ライフスタイルは、決してボーダー・コリーの飼育に適しているとは言えませんでした。苦渋の選択ではありましたが、私は新しい飼い主さんを見つけてはどうかという提案をせざるを得ませんでした。

飼い主さんはとても悲しみましたが、最終的には納得してくださり、ジョンの里親を探すことになりました。と言っても、哺んだことがある犬の里親捜しは、保護団体によっては断られることもあります。

結局ジョンは、保護団体の世話にはなれず、知り合いのつてを頼って九州の牧場で面倒を見てもらうことになりました。

忙しいからこそ「犬を飼って癒やされたい」と思う人も多いと思います。お年寄りの00L(クオリティーオブライフ/生活の質)向上のために、「犬を飼うのがおすすめ」という考え方もあるようですが、現実的に見て果たしてそれは正しいのでしょうか。

犬と付き合うには、犬のためにそれなりに時間を使う必要があります。とくに子犬から飼い始める場合には、世話やしつけが飼い主さんの生活に負担になり、育犬ノイロ-ゼのような状態になってしつけ相談を申し込まれる方も多いのです。

 

飼い主は強い心を持つこと

前回のポポの話をもう少し。

私が「もう少し毅然とした態度で降ろしてください」とお願いすると、「無理に降ろして、嫌われませんか?」と。なるほど、そんな心配があったんですね。ある意味、嫌われることをしないと「上ってはいけない」という学習をさせることができないので、理屈は合っています。しかし相手はトイプードルです。もう少し姐御風でなければいけない、ということで、再度私が手本をお見せすることにしました。

ポポが得意げにソファに乗ったので、低い声で「ダメ!と言い、首輪をつかんで降りるよう促します。ここで、単に降ろしてしまうのではなく、「降りるしかないように首輪を押さえる感じにする」のがポイントです。降りる、という選択をするのはあくまで犬自身でなくてはなりません。

首を押さえられたポポは、少し抵抗して暴れましたが、私の力の強さを感じると、すんなり降りました。そして降りた途端にブルブルと体を震わせました。これはカーミングシグナルと思われ、私がポポを降ろす際に多少のストレスがかかったと見られます。

つまり「ソファに乗ったら嫌なことが起きるよ」というメッセージは伝わったのです。降りたらすぐにほめてやると、とてもうれしそうに私に飛びつき、口元をなめてくれました。続けて「オスワリ」と指示をすると、素直にうれしそうに座ったので、おやつを与えました。

その後、ポポは私の足にちょこんと背中をくっつけて寝始めました。私からのメッセージは、しっりとポポに伝わったと実感しました。ポポは、安心して眠れる相手に私を選んだのです。

それを見た飼い主さんは、「私ではなく、先生のそばがいいのね。でも、わかる気がします」と言いました。そして「私も、先生といると安心できます。だから私も、ポポにとって先生のような存在になれるよう、息子のためにもがんばります!」。そう言ってくれました。

ポポの飼い主さんには、犬と正しい関係を築いてもらうため、子犬のためのベースプログラムをしっかりと実施してもらいました。

元気なポポの動きをコントロールするために、「オイデ」、「オスワリ」、「マテ」のトレーニングも、大好きなおやつを使って徹底的に行ってもらいました。とくに、いろいろな刺激があっても待てるようなトレーニングをお願いしました。その後しばらくして、飼い主さんからいただいたメールにはこうありました。

「ご指導いただいたおかげで、私も強くなれました。不思議なことに、私と息子の関係も良くなったんです。今ではポポがうなっても、『ウーツじゃないでしょっ!』つて叱れる自分がいます。毎晩泣きながらいとこに相談したり、先生にメールしていたことが嘘のようです」

その後反抗期に入ったポポは、それなりに言うことを聞かなくなったりもしたそうですが、飼い主さんは強い心を持ち続けてがんばってくれました。

それからさらに約半年後、「ポポが病に冒されていることがわかった」とのメールがありました。飼い主さんは、ポポには自分しかいない、ポポを守るために自分がもっと強くならなければならないと実感したそうです。

そしてメールは、こう締めくくられていました。「もう私はポポには負けません。そして、ポポの病にも絶対に負けません」

 

行動が激しいトイプードル

ペットショップの店員さんに「お子さんのいいお友達になりますよ」と言われ、そのフワフワしたぬいぐるみのような容姿に惹かれて飼い始めてみたところ……。日に日に行動が激しくなり、私に相談を持ちかけてくれたころには、小学校低学年の息子さんと遊びたくて追いかけ回し、甘噛みの抑制ができてないので、息子さんの膝小僧は血だらけになっているとか。

飼い主さんは、そんな犬を飼ってしまった自分を責めて、息子さんに謝り、もともと犬嫌いだったのに飼うことを了解してくれたご主人にも謝るばかりの日々。大げさではなく、毎晩泣きながら、犬を飼っているいとこに相談を持ちかけていたそうです。

さっそくご自宅に伺ってみると、飼い主さんは、物腰柔らかくやさしそうな女性でした。線が細いと言うのでしょうか、「君は僕がいなくてもひとりで生きていける人だから」なんて決して言われないタイプの方でした。

当のトイプードルの『ポポ』はと言えば、ゲージから出したとたんに、私に向かってうれしそうに走ってきて、そのままジャンプして手に甘噛み攻撃です。抑制もあまりできていないので、なかなか痛かったです。でも、まだ会ったばかりなので決して叱らず、機械的にそのまま捕まえてゲージに逆戻りしてもらいました。

以前友人が飼っていたトイプードルは、私の「親友犬」でした。私は、友人が「トイプードルが欲しい」と言い出したときには反対しました。初めて犬を飼う友人には、決して飼いやすい犬ではないと思ったからです。周りからも「トイプードルは大変よ!」と言われたようですがどうしてもあきらめきれず、私がブリーダーさん宅に同行した上で、「手元に来たら私が勤務していた訓練所に入れる」という約束で飼うことになったのです。

そんなことがあっただけに、ペットショップの店員さんの「いいお友達になりますよ」という発言は、ちょっと(と言うかかなり)説明が足りないように思います。もちろん、とてもいい子になりましたし、飼い主のボーイフレンドよりも私に会ったときのほうが喜んでくれる(笑)という本当にかわいい子でした。でもそれは、私も一生懸命しつけの手伝いをしましたし、友人もがんばってくれた結果によるところが大きいのです。

甘噛みが激しくて流血するため、息子さんはポポがゲージから出てくるとソファに逃げるようにしていたそうなのです。ところが最近では、ポポは鮮やかなジャンプでソファに上がれるようになり、降ろそうとするとうなって威嚇するようになったとのことでした。

私はトイプードルの気質を知っているので不思議はありませんでしたが、小さいお子さんがいるならとても心配です。小学生の子どもの顔の位置あたりなら、助走なしで余裕でジャンプできる身体能力を持っているのがトイプードル。何かのはずみで顔を噛まれたりしたら、大変なことです!

そこで、まずは息子さんの緊急避難場所を作るために、ソファに上らないトレーニングを始めることにしました。ポポをゲージから出してもらうと、すかさずソファに乗ったので、「ポポがソファに乗ったらすぐに首輪をつかみ、『ダメ』など短い言葉でひと言叱って降ろしてください」と見本を見せたのですが、飼い主さんの様子がヘンです。怖いのかな?と思って聞いてみると「何か、かわいそうで……」とのこと。

息子さんが血だらけになっているというのに、ポポがかわいそう‥それがいけないのです!それでは、こちらのメッセージが正しく伝わりません。今伝えなくてはならないのは、「ソファに乗ったら嫌なことが起きるよ」、「乗らなければ嫌なことは起きないし、ほめてもらえるよ」ということなのです。それができなければ、息子さんが遊んでいるときは絶対にポポをゲージから出せないか、出しているときの息子さんの避難場所を作ることはあきらめなくてはなりません。

でも飼い主さんの希望は、「できればポポには息子と仲良くしてほしい」ということでした。だからこそがんばってもらうことにしたのですが、いまひとつ動きにキレがなく、どうも飼い主さんの迫力が足りません。中途半端な飼い主さんのメッセージはポポにとって遊びとなり、トレーニングは「ソファ乗り降りごっこ」になってしまいました。