犬種について

飼い主さんから「どんな犬種が飼いやすいですか」と聞かれることがよくあります。個体差もあるので、なかなか一概には答えられない質問です。

強いて言えば、飼いやすい犬種としてはシー・ズーやキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなどを挙げることが多いと思います。実際に飼っている人からすれば「いや、そんなことないよ」というご意見もあるかと思いますが、もし同じお悩みの行動(吠える、噛むなど)がほかの犬種、たとえば柴犬やウェルシューコ・ギー、テリア種にあった場合、行動を改善する作業は何倍も大変になると感じています。

これは、私がこの数年間、問題行動で飼い主さんが困っている1000頭以上の犬たち(一部は問題行動がまだ出ていない子犬もいますが)と向き合ってきて、感じることです。

また、飼い主さんの性格やライフスタイル、環境、思い描く理想の付き合い方と、選んだ犬種の特性が合わない場合もあります。

実際に私が扱ったなかで思い出すのは、『ジョン』(ボーダー・コリー/♂/4ヵ月)のケース。

ジョンの飼い主さんは看護師さんで、仕事柄、夜勤で帰れない夜もありました。お住まいはあまり広くなく、そこに寝たきりのおばあさんと、犬が怖くてさわることができない独身の弟さんが同居していました。ジョンのハウスは、やっと体が収まるくらいの狭いゲージの中でした……。

ボーダー・コリーは、もともと家畜を追うための作業犬で、広いスペースを走り回るのが大好き。そしてそれだけの豊富な運動量を必要とする犬種です。ということは、散歩をたくさんして、運動エネルギーを消費してやる必要があります。

しかし忙しい看護師さんには、散歩のために十分な時間がなかなか取れません。家では寝たきりのおばあさんの介護もしなければなりません。弟さんに散歩を頼もうとしても、怖くてさわれないので無理とのことでした。

そんなジョンは、ある日、ハウスに入れようとした飼い主さんの手を噛んでしまいました。ハウスは育ち盛りのジョンには小さすぎるサイズだったので、それなりの抵抗をしたのだと思います。明らかな運動不足も、攻撃的な行動の原因になっていたと思われます。

実際にジョンに会ってみると、ごくごくふつうの子犬でした。まだ4ヵ月齢なので動きもまだ子犬っぽく、エネルギーがあってとても元気。人なつこく、私がプロレス遊びに誘ってやると、上手に加減した甘噛みをすることもできました。とても飼い主を血だらけにする犬には思えません。

しかし飼い主さんは、そんなジョンに対して、「絶対に人に噛みついてはいけない」「自動車に飛びついてはいけない」などのしつけをするため、飼い主さん仲間からのアドバイスに従って体罰を使ってしまいました。体罰が全面的にダメだと言うつもりはありませんが、慎重に使わないと、かえって犬の攻撃性を引き出すことになります。

結果、飼い主さんと犬との信頼関係は壊れ、犬は自分の身を守るために、飼い主を攻撃することを覚えてしまいます。ジョンも例に漏れず、体罰で叱られたその夜に飼い主さんを再び血だらけにしてしまいました。

この場合、飼い主さんの住環境や家族構成、ライフスタイルは、決してボーダー・コリーの飼育に適しているとは言えませんでした。苦渋の選択ではありましたが、私は新しい飼い主さんを見つけてはどうかという提案をせざるを得ませんでした。

飼い主さんはとても悲しみましたが、最終的には納得してくださり、ジョンの里親を探すことになりました。と言っても、哺んだことがある犬の里親捜しは、保護団体によっては断られることもあります。

結局ジョンは、保護団体の世話にはなれず、知り合いのつてを頼って九州の牧場で面倒を見てもらうことになりました。

忙しいからこそ「犬を飼って癒やされたい」と思う人も多いと思います。お年寄りの00L(クオリティーオブライフ/生活の質)向上のために、「犬を飼うのがおすすめ」という考え方もあるようですが、現実的に見て果たしてそれは正しいのでしょうか。

犬と付き合うには、犬のためにそれなりに時間を使う必要があります。とくに子犬から飼い始める場合には、世話やしつけが飼い主さんの生活に負担になり、育犬ノイロ-ゼのような状態になってしつけ相談を申し込まれる方も多いのです。